1980年代、日本のバイクシーンは空前の「レーサーレプリカ熱狂時代」に沸いていました。1馬力でも多く、1秒でも速く。メーカー各社が威信をかけてWGP(世界グランプリ)の技術を市販車にフィードバックさせていた、今思えば奇跡のような時代です。

その渦中で、ヤマハのTZR250やホンダのNSR250Rといった強大なライバルに対し、スズキが放った「V型2気筒」の刺客。それがRGV250Γ(VJ21A)です。今回は、多くの若者を2スト沼へと引きずり込んだこの名車の魅力と、現代の視点から見たその価値を徹底解説します。

[画像:RGV250Γ(VJ21A)のアイキャッチ画像]

1. RGV250Γ(VJ21A)主要スペック

まずは、当時のスペックを振り返ってみましょう。乾燥重量128kgに対して45馬力という数値は、パワーウェイトレシオに換算すると驚異の「2.84」。現代の400ccクラスでも太刀打ちできない瞬発力の源泉がここにあります。

項目 スペック詳細
型式 VJ21A
エンジン型式 水冷2ストローク・90度V型2気筒
排気量 249cc
最高出力 45ps / 9,500rpm
最大トルク 3.8kg-m / 8,000rpm
乾燥重量 128kg
燃料供給方式 スリングショットキャブレター(TM32SS)
燃料タンク容量 17リットル
タイヤサイズ(前/後) 110/70-17 / 140/60-18

2. 「パラツイン」から「V型」へ。スズキの勝負所

VJ21Aを語る上で欠かせないのが、先代のRG250Γ(並列2気筒)からの決別です。ホンダがNSRでVツインの優位性を示していた時代、スズキもまた「究極のレプリカ」を目指し、水冷90度V型2気筒エンジンを選択しました。

AETC(自動排気タイミング制御)の衝撃

2ストロークエンジンの宿命である「低回転域のトルク不足」を解消するため、スズキが投入したのがAETC(Automatic Exhaust Timing Control)です。これは、エンジン回転数に応じて排気ポートのタイミングを2段(後に3段)で制御するスライドバルブシステム。これにより、低速での扱いやすさを確保しつつ、パワーバンドに入った瞬間に弾けるような加速を実現しました。

管理人の回想:「7,000回転を超えたあたりから、視界が歪むような加速が始まるあの感覚。あれこそが、私を2スト沼へ引きずり込んだ張本人でした。」

3. VJ21Aならではの「鋭い刃」のような魅力

後のVJ22Aが「完成されたレプリカ」なら、VJ21Aは「未完成ゆえの狂気」を孕んだ一台と言えるかもしれません。

スリングショットキャブレターのレスポンス

VJ21Aに採用されたスリングショットキャブレターは、負圧式と強制開閉式のメリットを併せ持ち、右手の動きにエンジンが即応するダイレクト感を生み出しました。しかし、その分セッティングはデリケート。季節や高度によって機嫌が変わるその性格さえも、エンジニア気質のオーナーにとっては「対話」としての楽しみになります。

[画像:VJ21Aの右2本出しマフラーのアップ写真]

ケビン・シュワンツと「右2本出し」

当時、スズキのエースライダーだったケビン・シュワンツ。彼のライディングを彷彿とさせる「右出し2本マフラー」のレイアウトは、当時の若者にとって絶対的なアイコンでした。ペプシカラーのツナギに身を包み、ガンマで峠を攻める……。そんな風景が日本中のあちこちで見られました。

4. 2025年にVJ21Aを愛でる「覚悟」と「悦び」

今、リターンライダーがVJ21Aを所有するには、当時とは異なる「覚悟」が必要です。しかし、それを上回る「悦び」があることも事実です。

パーツ供給という現実的な壁

35年以上が経過した現在、純正パーツの欠品は深刻です。特にカウル類やAETC関連のセンサーなどはオークションでも高値で取引されています。しかし、同じVJ21Aエンジンを積む「アプリリア RS250」のパーツが流用できたり、海外のサードパーティから部品を調達したりと、現代のネットワークを駆使した維持の楽しみも生まれています。

2ストオイルの「香り」を次世代へ

環境規制により、2ストローク車が新たに作られることはもうありません。だからこそ、VJ21Aを走らせ続けることは、一つの文化遺産を守ることに他なりません。排気ガスから漂うカストロールやCCISの香り。それは、あの頃がむしゃらだった自分への招待状なのです。

5. まとめ:白煙の向こう側に見えるもの

VJ21Aというバイクは、決して優等生ではありません。扱いにくく、手がかかり、それでいて圧倒的な喜びをくれる。それは、がむしゃらだったあの頃の記憶を呼び覚まし、今の自分に「自由とは何か」を問いかけてくる存在です。

もしあなたが、今中古車市場で程度の良いVJ21Aに出会ってしまったなら……。それは、人生からの無責任で最高のアドバイスかもしれません。白煙の向こう側に、あの頃の自分が待っています。